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東京地方裁判所 平成2年(ワ)16602号 判決 1992年11月19日

原告 向井誠二

向井康之

右両名訴訟代理人弁護士 児玉勇二

安田秀士

被告 ジャパントラスト株式会社

右代表者代表取締役 菅宮明彦

右訴訟代理人弁護士 伊東正勝

登坂真人

右訴訟復代理人弁護士 山崎和代

主文

一  被告は、原告らに対し、それぞれ九一〇六万九八〇〇円及びこれに対する平成二年一二月二六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

理由

一  原告らの主張する請求原因事実(5の事実を除く。)は、当事者間に争いがない。

1  そこで、まず被告の清算義務について検討する。

ア  右の認定によれば、本件譲渡担保契約はいわゆる帰属清算型の譲渡担保であるところ、①原告らが本件貸金債務等の履行を遅滞したこと、及び、②被告が原告らに対し原告ら持分権を取得する旨の意思表示をしたことは明らかである。しかし、③被告が原告らに対し清算金の支払い若しくはその提供又は原告ら持分権の適正評価額が本件貸金債務等の額を上回らない旨を通知したこと(最高一小昭六二・二・一二判、判例時報一二二八・八〇頁参照)については、当事者双方がなんらの主張もしないし、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。

しかし、右の認定によれば、原告らが本件貸金債務等の弁済をしないうちに、平成二年一二月二五日被告が訴外会社に原告ら持分権を売却したというのであるから、原告らはその時点で受戻権ひいては原告ら持分権を終局的に失い、同時に本件貸金債務等が消滅するとともに、右時点を基準時として清算金の有無及びその額が確定されるといわなければならない(前掲最高一小昭六二・二・一二判参照)。

イ  被告は、原告らが本件建物の五階、六階を占有しているから、被告の清算義務は発生しないと主張する。

しかし、さきに認定したように被告が訴外会社に原告ら持分権を売却した以上、原告らは原告ら持分権を終局的に失うから、その反面として、この時点において本件貸金債務等が消滅するほか、原告らが清算金の支払いを求めることができることとなるのは理の当然である。そして、①原告らが本件建物の各部分を占有していることにより原告ら持分権の価額が下落したとしても、それは清算金の額がいくらになるかという問題として検討すれば足りるし、②また、被告と訴外会社との売買契約が原告らにおいて平成二年一二月三一日までに本件建物を明け渡す(成立に争いのない≪証拠省略≫)ことを前提として締結されたとしても、その故をもって右の理が左右されることはない。被告の右主張は採用することができない。

ウ  被告と原告らとの間には清算金を支払わない旨の特約があったことは当事者間に争いがない。

しかし、一般に譲渡担保契約を締結した債権者は、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合において、目的不動産を換価処分するなどして具体化した価額から自己の債権額等を差し引きなお残額があるときは、債務者に対し清算金を支払わなければならない(最高一小昭四六・三・二五判、民集二五・二・二〇八頁)のであって、これに反する特約は、その特約が清算期間が経過した後にされる等特段の事情のない限り、無効というべきである(仮登記担保契約に関する法律三条三項、一項参照)。本件の場合、被告の主張する特約は清算期間の経過前である平成二年九月一四日に本件譲渡担保契約の締結とともに成立した(≪証拠省略≫)ことが明らかであるから右の特段の事情があるということはできず、他に右の特段の事情があると認めるに足りる証拠はない。

エ  以上検討したところによれば、被告は、本件譲渡担保につき平成二年一二月二五日を基準時とする清算義務を負うといわなければならない。

2  次に、清算金の有無及びその額について判断する。

ア  当裁判所は、再三、被告が訴外会社と締結した売買契約における代金の額につき釈明を求めたが、被告は遂にこれを明らかにしなかった。

また、平成二年一二月二五日における原告ら持分権の価額が一三億円を超えることは、成立に争いのない≪証拠省略≫をもってもこれを認めさせるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

ところで、鑑定人小谷芳正の鑑定の結果によれば、平成二年一一月三〇日における原告ら持分権の価額は八億四七〇四万円というのである。右の鑑定の結果は、①鑑定の対象が所有権ではなく持分権であること、②本件建物の地下一階から四階に複数の賃借人がいて右賃借人らがこれを占有しており(≪証拠省略≫)、かつ、原告らが本件建物の五階、六階を占有していることをも勘案しているから、妥当なものということができる(なお、③右の時点においては、被告の主張にかかる本件土地建物についての暴力金融業者の(根)抵当権設定仮登記は、すべて抹消されていた(成立に争いのない≪証拠省略≫)から、これを考慮する余地はない。)。そうすると、他に特段の事情の認められない限り、同年一二月二五日における原告ら持分権の価額もこれと同額であると推認することができ、この推認を妨げる事実はない。

イ  そして、同日における被告の貸金、利息及び遅延損害金の額が合計六億六四九〇万〇四〇一円であることは、さきに認定したとおりである。

ウ  そうすると、被告が原告らに対し、本件譲渡担保の清算金としてそれぞれ交付すべき金額は、右八億四七〇四万円から六億六四九〇万〇四〇一円を控除した残額の二分の一である九一〇六万九八〇〇円となる(一円未満四捨五入)。

二  以上によれば、原告らの請求は、清算金としてそれぞれ九一〇六万九八〇〇円及びこれに対する被告が原告ら持分権を確定的に取得した日の翌日である平成二年一二月二六日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 増井和男)

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